《テール・ド・シエル》標高950mの「天空の大地」でブドウの声に耳を澄ます。風景を映し出すワインの真髄

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SAKE TALK 編集部

長野県小諸市、糠地(ぬかじ)地区。標高950mという高地に立つと、眼下には美しく波打つ御牧ヶ原の台地が広がり、視線を上げれば八ヶ岳や北アルプスの荒々しくも美しい稜線、そして遮るもののない青空の向こうには、時折富士山がその雄姿を現します。

「テール・ド・シエル(Terre de ciel)」——フランス語で「天空の大地」を意味するその名の通り、そこはまさに空と土が交わる場所です。
ここで生まれるワインを一口含むと、驚くほどピュアな透明感と、身体にじんわりと染み渡るような美しい旨味に包まれます。それは世界のどこかの銘醸地を模倣したものではなく、糠地という土地の空気や風景そのものをボトルに閉じ込めた、唯一無二の結晶です。

今回は、栽培・醸造を担う桒原一斗さんの真摯な哲学と、代表の池田岳雄さんが築いた温かなコミュニティの物語から、このワインが持つ美しさの本質へと迫ります。

《バーチャル畑/ワイナリーツアー》

畑を歩き、ワイナリーを訪れ、桒原さんの言葉に耳を傾ける—
現地体験のような臨場感で、テール・ド・シエルの魅力をお届けするショートムービーです。
ぜひご視聴ください。
※2026年4月中旬の畑の様子を収録

風景と風土をボトルに映し出す——標高950メートルの「天空の大地」

千曲川ワインバレーの中でも、一際空に近い場所に位置する糠地地区。
見上げれば雲の流れるスピードが速く、吹き抜ける風にはどこか凛とした冷たさが混じっています。
この自然の恩恵に満ち溢れた環境こそが、テール・ド・シエルのワインの揺るぎない骨格を形作っています。

栽培・醸造責任者 桒原 一斗さん

私たちは、ブルゴーニュのようなワインを造りたいと考えているわけではありません。この糠地の空気や美しい風景、そしてブドウ畑をありありと思い浮かべられる。そんなワインを造りたいのです。
この土地ならでの魅力をワインに映し出すために、畑が95%・醸造が5%という思いでワイン造りに向き合っています。

栽培・醸造のすべてを担う桒原さんは、雄大な自然を前に、穏やかに、しかし強い確信を持ってそう語ります。彼の言葉を証明するように、テール・ド・シエルのワインには、この土地の記憶が驚くほど鮮明に刻み込まれています。

標高950メートルという高地は、日中には太陽の光を遮るものがなく、燦々と降り注ぐ日差しによって気温が急上昇します。しかし、日が傾き始めると空気は一変し、一気に冷え込みます。この劇的な昼夜の寒暖差が、ブドウに芳醇な果実味をもたらすと同時に、美しく伸びやかな酸味をしっかりと果粒のなかに閉じ込めるのです。

さらに特筆すべきは、足元に広がる独特な土壌です。テール・ド・シエルの畑は、浅間山の噴火による火山灰が2〜3割、そして溶岩由来の粘土質が7〜8割という、稀有な構成をしています。

火山灰の土壌は、ワインに軽やかさと高い香りを与えてくれます。一方で粘土質の土壌は、香りに奥深い複雑さを与え、味わいに重さやグリップ感をもたらします。それが合わさって、この土地ならではのユニークな個性に繋がっていると考えています。

展望台からの景色(2026年4月中旬撮影)

マニュアルを持たない。「ブドウの立場」に立つ栽培哲学

桒原さんの畑仕事には、決まったマニュアルがありません。常に「ブドウの樹がどう感じているか」を想像し、1本1本の樹と静かに対話を重ねながらその日の作業を決めていくのです。

日本の多くのブドウ畑では、雨や直射日光からデリケートな果実を守るため、「レインカット」や「傘かけ」を行うのが一般的です。しかし、テール・ド・シエルの畑には、空とブドウを隔てる人工物は一切見当たりません。

暑く晴れ渡った日に、自分がカッパを着させられたら居心地が悪いですよね。それと同じで、ブドウだって居心地が悪いと思うんです。居心地が悪い環境で、良い成熟ができるはずありません。だから私は、ブドウが深呼吸できる環境を整えるためにレインカットや傘かけはせず、病気のリスクが高まる本当に大切な時期にだけ、最低限の殺菌剤を撒くという選択をしています。

自然を人間の都合でコントロールしようとするのではなく、徹底して「ブドウにとっての居心地の良さ」を最優先する。その果てしない愛情は、目に見える地上部の葉や枝だけでなく、地中の世界にまで深く及んでいます。
春の訪れとともに、桒原さんはトラクター(プラウ)を畑に走らせ、地中10センチメートルほどの場所にあるブドウの「根を切る」という大胆な作業を行います。
一見すると植物を痛めつけるリスクを伴うように思えるこの作業には、生命の神秘を突く深い理由が隠されていました。

雨の多い日本では、水分を求めてブドウの根が地表近くの浅い部分に張りやすくなります。しかし、浅い根は雨の影響をダイレクトに受けやすく、逆に夏場に日照りが続くと致命的な水分ストレスを受けてしまいます。
植物には脳はないけれど、生き抜くための『知性』は確かに存在します。根を切られたくないから、安全な地中深くへと自ら根を伸ばそうとするんです。それが結果として、過酷な環境にも耐えられ、病気にも打ち勝つことのできる、強く健全なブドウへと成長することに繋がります。

過保護に育てるのではなく、本来備わっている野生の強さを引き出す。
ブドウが自らの意志で立ち上がり、大地の奥深くのミネラルを力強く吸い上げる手助けをする。
これこそが、桒原さんが実践する「畑95%」の真髄であり、ワインに宿る力強さの源なのです。

5%に宿る執念:純粋さを導く「引き算の醸造」

広大な畑で、自然の摂理に従い完璧に育て上げられたブドウのバトンを受け取るのが、残りの「5%」である醸造プロセスです。
パーセンテージこそ少ないものの、そこに込められた情熱と執念は、畑仕事に勝るとも劣りません。
桒原さんが醸造において掲げる絶対的なテーマは、「いかに手を加えないか」という引き算の醸造です。

発酵には、人工的な培養酵母を用いず、この土地やワイナリーに自然に棲み着いている「野生酵母」の力を借ります。さらに、味わいを人間の理想に近づけるための補酸や補糖、液体の透明度を人工的に上げるための濾過を行わず、基本的には酸化防止剤(亜硫酸)も添加しません。その年のヴィンテージが経験した気候の移ろいや、糠地の風土のありのままの姿を、何一つ歪めることなくボトルに封じ込めるためです。

しかし、この「引き算の醸造」は、決して放任主義を意味するものではありません。むしろ、何もしない純粋な状態を美しく保つためには、人間による徹底的な環境管理と、ワインを守るための緻密なテクノロジーが必要不可欠となります。

収穫したばかりのブドウは太陽の熱を持っています。温かいまま潰してしまうと、意図しない悪いバクテリアが活動を始めてしまう。そのため、醸造前に一晩、5℃に設定した冷蔵室でじっくりと保管し、果実を落ち着かせます。その後にブドウを絞る際も、14℃程度の低温管理を徹底しています。こうすることで、ブドウが本来持っているフレッシュなアロマと、雑味のないピュアな果実味を極力損なわずに引き出すことができるのです。

さらに、テール・ド・シエルの醸造所に足を踏み入れると、圧倒的な存在感を放つ最新鋭の機械が目に飛び込んできます。日本初導入となった、大型の「垂直式バスケットプレス」です。

一般的なプレス機であれば、数時間で完了する搾汁作業。
しかし、桒原さんはこの機械を使い、24〜36時間という長い時間をかけて、ごくごく低圧で優しく、ポタポタと静かに滴り落ちる果汁を集めます。

私たちが目指しているのは、雑味のないピュアな味わいのワインです。強い圧力をかけて短時間で搾汁すると、どうしても種や皮からエグみや雑味が出てしまいます。ブドウを傷つけることなく、純粋な果汁を得るために、このプレス機は不可欠だと判断しました。また、ゆっくりと時間をかけることで、皮の裏や種の周りにある美味しいエキスを余すことなく抽出できるのも、この垂直式バスケットプレスならではの魅力です。

こうして搾られた果汁は、機械のポンプを一切使わず、重力のみで移動させる「グラビティ・フロー」によってタンクへと運ばれます。ポンプの強い圧力を受けることで生じる液体へのストレスや、過度な酸化を防ぐため、醸造所内にはコンクリートで特注された高低差のある台がわざわざ設けられています。

どこまでもブドウを優しく、敬意を持って扱う。その執念と呼ぶべき配慮の積み重ねが、あの驚くほどの透明感と、身体に染み入るような旨味を生み出しているのです。

恩師の教え「ブドウがなりたいワインを造りなさい」

なぜ、桒原さんはここまで徹底してブドウに寄り添うことができるのでしょうか。
その哲学の根底には、かつて師事した恩師から授かった、生涯忘れることのない大切な言葉があります。

『自分がワインを造ろうとするのではなく、ブドウがなりたいワインを造りなさい』と教わりました。この言葉は今でも私の好きな言葉で、いろいろな場面で思い返します。
この言葉を胸に、畑ではブドウが健全に育むための工夫を重ね、醸造においては、ブドウがなりたい姿になるための手助けをしているんです。

近年の地球温暖化や気候変動により、予測不可能な天候が続く現代において、自然を相手にするワイン造りは決して容易ではありません。ときには自身のこれまでの経験や手法が通用せず、発酵が途中で止まってしまうなどの予期せぬ苦難に直面することもありました。
しかし、桒原さんの姿勢には、大自然に抗うことのない、しなやかな強さがあります。

気温が上がって環境が変わったのなら、それに寄り添って、その年の味わいを表現するだけです。工業製品のように均一化された、毎年同じ味わいのワインを造りたいとは全く思っていませんので。

天候の変化すらもヴィンテージの個性として受け入れ、愛おしむ。その人間味あふれる大きな器と哲学が、テール・ド・シエルのワインに独特の温かみと深い感動を与えているのです。

飲み手へ託すバトン。ワインが花開くその時まで

徹底した畑の管理と、引き算の醸造によって生み出されたテール・ド・シエルのワイン。
その秘められたポテンシャルを最大限に引き出し、最高の状態で味わうための方法を、桒原さんに伺いました。

リリースされてから、できれば2年〜3年は寝かせてから飲んでいただきたいです。瓶詰め直後はどうしてもワインが閉じている状態にあります。しかし、しばらく寝かせることで、私たちが表現したかったこの土地ならではの風土を感じられるようになると思っています。
テール・ド・シエルのワインは無濾過で、酸化防止剤の使用も極限まで抑えているので、とてもデリケートです。
温度の急激な変化や光、そして振動の影響をできるだけ受けない環境で、14℃前後の温度でゆっくりと寝かせてあげてほしいです。

それはまさに、造り手から飲み手へと手渡されるバトンです。

そして最後に、どんなシーンでこのワインを飲んでほしいかという問いに対し、桒原さんはこう答えてくれました。

蔵からワインを出す時は、いつも自分の子どもを送り出すような気持ちです。それほどに深い愛情を込めて、ワイン造りに向き合っています。
だからこそ、飲み手の方が、家族や友人、恋人など、大切な人との特別な時間を過ごす時に、私たちのワインも一緒に寄り添えたら……造り手としてこんなに嬉しいことはありません。

ワイン好きが集う天空のサンクチュアリ「NUKAJI WINE HOUSE」

テール・ド・シエルの魅力をさらに物語る場所が、畑から車で少し下った標高850mの場所にある「NUKAJI WINE HOUSE」です。
テール・ド・シエルを創業した代表の池田岳雄さんが運営するこの施設は、今や日本ワインを愛する人々の間で、一度は訪れるべき“聖地”として知られています。

ここは1日1組限定の宿泊施設であると同時に、ワインを中心とした豊かな時間を過ごすための様々な機能も備えています。
たとえば施設内のショップでは、自社ワインだけでなく、近隣の農家から委託醸造を受けたワインや千曲川ワインバレーのワインも販売されています。さらに、ブドウ畑が見える広い中庭では、ゲストが持ち込んだ食材でバーベキューを楽しめ、重厚なアンティーク家具が置かれたラウンジでは、ワインを片手に夜中まで語り合うことができます。

驚くべきことに、積極的な広告宣伝は一切行われていません。それにもかかわらず、訪れた人の口コミだけで、全国からソムリエやワインスクールの講師、そして熱心な愛好家たちが引きも切らずに押し寄せています。

池田社長はこの施設に込めた想いを次のように語ります。

テール・ド・シエルの拠点としてはもちろんですが、小諸市、ひいては千曲川ワインバレー全体のハブ拠点にしたいという想いで『NUKAJI WINE HOUSE』を設立しました。ワイン好きの方々がワイナリーに立ち寄ったときに、この施設に泊まっていただいて、素晴らしい景色を眺めながらほっこりと心と体を休め、ワインについて語り合う。そういうアットホームな寄り所を作りたいという、私の夢を形にした場所なんです。

テール・ド・シエル代表 池田 岳雄さん

ゲストたちは満天の星空や夕日を眺めながら至福の時を過ごし、秋の収穫期には全国から年間350名ものボランティアが駆けつけ、寝食を共にしながらブドウの収穫を手伝うそうです。
人と自然、そしてワインが幸福な形で交差するこの場所には、池田社長の「人への優しさ」が満ち溢れています。

天空の大地から、あなたのもとへ

テール・ド・シエルのワインが持つ、あの息をのむような透明感とじんわりと心にまで広がる旨味。
それは、標高950メートルの峻烈な自然環境が生み出した奇跡であると同時に、ブドウの生命力と知性をどこまでも信じ抜く桒原さんの「引き算の哲学」、そして、人と人との温かな絆のハブとなる場所を築き上げた池田社長の「人間味」が、一本のボトルの中で完璧に調和した結果なのです。

今夜は大切な人を誘い、セラーのなかで静かに眠らせておいたテール・ド・シエルのボトルを開けてみませんか。
グラスに注がれたその液体からは、天空の青空、糠地の冷涼な風、大地の奥深い香り、そして造り手の優しい情熱が溢れ出し、あなたの大切な時間を、きっと忘れられない特別なものにしてくれるはずです。
そしていつか、ワインから感じ取った美しい風景の答え合わせをするために、糠地の丘に足を運んでみてください。

テール・ド・シエル(Terre de Ciel)
住所:長野県小諸市滋野甲4063番10
電話番号:0267-41-6671
公式サイト:https://www.terredeciel.jp/

NUKAJI WINE HOUSE
住所:長野県小諸市大字滋野甲字北山4162-512
電話番号:0267-25-0005


ワインや日本酒の美味しさをしっかり守る高機能セラー

さくら製作所は、「美味しいをもっとおいしく」をミッションに、生産者さまが丹精込めて造り上げたワインや日本酒を、最良の状態で飲み手へ届けるセラーを開発しています。

私たちがたどり着いたのは、庫内の空気ではなく“液体温度”を管理する独自技術。設定温度と液体温度を一致させる高度な制御を実現することで、お酒本来のポテンシャルを引き出し、理想的な状態で保管・熟成できる環境を提供しています。

さらに、日本の住環境に配慮し、省スペース・大容量・省エネ性を兼ね備えたセラーを開発。日本の食文化とライフスタイルに合わせた、最高の美味しさを追求したセラーをラインナップしています。

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