300銘柄の日本酒を飲んだ私がおすすめする日本酒初心者のお酒の選び方

穂積亮雄のプロフィール画像
代表取締役穂積亮雄

日本酒には様々な種類があり、テレビCMなどで宣伝されて大量生産されるカップ酒やパック酒のほかに、全国の小さな酒蔵で作られる少量多種の地酒もあります。日本酒全体の消費量は年々減少傾向にある反面、小さな酒蔵が作る日本酒(地酒)は少しずつ人気が高まり、海外でも高く評価されるようになってきました。中には入手困難な希少酒も存在し、定価の10倍以上で取引される銘柄も存在します。

日本酒の販売に力を入れている酒屋に行くと、何十何百種類もの日本酒が、ショーケースや棚に陳列されています。最近ではスーパーでも人気の地酒が販売されたり、正規特約店のウェブショップを利用すればネット通販でも地酒を定価で買うことができたりと、良質な日本酒を気軽に味わえるようになりました。

しかし、その数が多すぎて、日本酒に詳しくない方や飲みなれていない方は、どれを選んでよいかわからないでしょう。

ここでは、日本酒の初心者の方に向けて、好みの日本酒を見つける簡単な方法を紹介していきます!

基本的な見分け方

日本酒の味わいを想像するのに簡単なのが精米歩合と原料で見分ける方法です。精米歩合と原料は、商品のラベルにも記載されている基本的な情報。この2つを知ることで、お酒の名称や違いを理解しやすくなります。精米歩合と原料によって、どんな風にお酒の種類が変わるのか、紹介します。

精米歩合で見分ける

お酒を作る際には、玄米から白米にした後、さらに表面を磨く精米の作業が発生します。お米の表層には、タンパク質や脂質、糖質があり、これらが多く残っていると雑味の残ったお酒に仕上がってしまいます。

そんな精米の度合いを%で表したのが精米歩合です。精米後に残った米の割合を%で表現します。多くの日本酒は精米歩合60%前後とされています。それに対し、吟醸酒では精米歩合60%以下、大吟醸酒では50%以下と、より多くの部分を削ってお米の中心だけを使用してお酒を造ります。このように、精米歩合の違いによってお酒の名称が変わることを覚えておきましょう。

精米歩合の高い日本酒ほど、華やかで優雅な味わいになります。しかし、高い精米歩合だからといって美味しく感じるかどうかは個々人の好みによるので、はじめはバランスの良い吟醸酒から挑戦するのがおすすめです。

原料で見分ける

日本酒の基本的な原料は、米と米麹と水の3つです。しかし、市場に出回っている多くの日本酒には、この3つ以外に「醸造アルコール」が原料として含まれています。「醸造アルコール」はとうもろこしやサトウキビなどから蒸留した食用のアルコールで、無味無臭です。安定的な味わいにしたり、腐敗を防止する目的で使用されることがあります。


対して、「醸造アルコール」を使用せずに、米と米麹と水の3つだけからできた純度100%の日本酒を「純米酒」と呼びます。純米酒は全体の日本酒のうち、約25%ほどとされています。水と米、米からできた米麹のみでできているため、地域の素材の味を純粋に楽しむことができます。

「純米吟醸」と書いてあるお酒を選ぶ

ここまでに紹介した精米歩合と原料の違いによって、お酒の名称が変わり、その中には「特定名称酒」と呼ばれる日本酒があります。具体的には醸造アルコールの割合が10%以下、麹米の使用率15%以上、格付けされた玄米を精米しているという条件を満たしたお酒が「特定名称酒」とされます。

味わいから日本酒を選ぶときには、加熱処理の方法やにごりの程度など別の観点もありますが、まずは「特定名称酒」かどうかを1つの目安にしてはどうでしょうか。「特定名称酒」の中には、「吟醸」「大吟醸」「純米」「特別純米」「純米吟醸」「純米大吟醸」「本吟醸」「特別本醸造」の8種類が存在します。精米歩合と原料の組み合わせで、この8つに分類できます。

原料名称精米歩合
米、米麹純米酒規定なし
純米吟醸酒70%以下
特別純米酒60%以下、特別な醸造
純米大吟醸酒50%以下
米、米麹、醸造アルコール吟醸酒60%以下
大吟醸酒50%以下
本醸造酒70%以下
特別本醸造酒60%以下、特別な醸造

そのなかでも、日本酒初心者の方には「純米吟醸」がもっともおすすめです。日本酒をあまり飲まない方にも飲みやすいすっきりとしたバランスの取れた、料理に合わせて楽しみやすい味わいが特徴的です。

また、山田錦と雄町の酒米違い、生酒と火入の加熱方法違いなど、同じ「純米吟醸」でバリエーション豊かな商品を作っている蔵も多くあります。精米歩合が高いため希少価値と価格が上がりやすい「純米大吟醸」と比較すると、手に取りやすいのも魅力的です。「純米吟醸」は飲み比べがしやすく、好みのお酒を見つけるのにも最適でしょう。

さらに、新型コロナウイルス蔓延の影響で日本酒の流通が減り、結果的にお米が余ることもあります。酒蔵はお米を無駄にしないよう、通常は精米歩合60%ほどの「純米吟醸」を50%まで磨き上げたにも関わらず「純米吟醸」としてお得な価格帯で販売している場合もあります。これを機に、ぜひ「純米吟醸」をご堪能ください。

人気のお酒から選んでみる

ここまでに紹介したポイントを踏まえても、まだまだお酒の種類はたくさんあるかと思います。また、季節ごとに新しい商品が次々に登場するため、それらの中から好みのお酒を見つけ出すのは至難の業です。そんな時は、思い切って人気のお酒から試してみるのも1つの手です。

人気のお酒を知る

日本酒好きの間で人気のお酒を調べる方法はいくつかありますが、最も手っ取り早いのはWeb上で見られるランキングを参考にすることです。例えば以下のようなサイトは情報量も多く、お酒選びの参考になります。

①SAKE TIME
全国の日本酒ラバーたちが日本酒を呑んだ記録を投稿しているWebサイトです。写真とともに、呑んだ日本酒の感想と評価が投稿されています。

これらの投稿をもとに独自に計算して作られた日本酒ランキングがお酒選びの参考になります。味わいやおすすめの飲み方の紹介のほか、各投稿者からの口コミ、お酒の値段まで掲載されているので、お買い物の時に大活躍。中には2500件を超える口コミが寄せられた大人気の日本酒もあります。

公式サイト:https://www.saketime.jp/ranking/

②さけのわ
「さけのわ」も、全国から日本酒のレビューが投稿されるWebサイトです。Webサイトだけではなく、モバイルアプリもあるので気になった時にいつでもチェックしたり、投稿したりできます。

ここで発表されているのは、月ごとの人気ランキング。「さけのわ」利用者の間でいま人気のお酒を知ることができます。味わいがチャートで表現されていたり、「酸味」「フルーティ」「ヨーグルト」など特徴がタグで表現されていたりと、どんなお酒なのか想像しやすい工夫がされています。もちろん、他のレビュアーの口コミもチェックできます。

公式サイト:https://sakenowa.com/ranking

さらに信頼できる情報だけに絞って調べたいという方は、特約店のスタッフさんや日本酒を数多く取り揃えた居酒屋さんのスタッフさんに聞いてみるのもおすすめです。日本酒に詳しく、人気のお酒や初心者にも飲みやすいお酒に詳しいスタッフさんも多くいらっしゃいます。また、「角打ち」(かくうち)と呼ばれるお酒の試飲をさせてくれる酒屋さんも少なくありません。もともとは、酒屋さんで購入したお酒を家に帰るまで待ちきれないお客さんが、お店で1杯飲めるようにと始まった角打ち。最近では、ボトルを購入しなくても、60ml程度、角打ちとして試飲させてくれる酒屋さんが増えています。たとえば都内では「伊勢五本店」「IMADEYA GINZA」「IMADEYA SUMIDA」「君嶋屋」などが角打ちのできる酒屋として有名です。これらのお店で試飲をしてから、購入するお酒を決めるのも良いでしょう。

多くの人が楽しんでいるお酒は、万人受けするバランスの良い味わいのものが多いです。また、流通量・価格の両面から比較的手の届きやすいお酒が多いので気軽に試すことができます。どれを買えばいいのか見当もつかないときは、人気のお酒から自分に合うかどうか試してみるのはいかがでしょうか。

フルーティな日本酒を選んでみる

近年の日本酒の中で人気なお酒の1つが「フルーティな日本酒」です。リンゴや桃、ブドウ、バナナ、パイナップルなどの風味や香りを楽しむことのできる、日本酒初心者の方にとっても比較的飲みやすい味わいのお酒を指します。近年の日本酒ブームの中で、飲みやすいお酒として増えてきました。

「フルーティな日本酒」を作る要素は「酵母」と「精米歩合」です。酵母から排出される「カプロン酸エチル」や「酢酸イソアミル」などの成分が果実や華の香り成分と同じため、似た風味を醸し出します。そして、精米歩合が高いお酒は香りが強く残るため、これらの成分が生きたフルーティなお酒に仕上がります。「酵母」の情報はなかなか分からないので、まずは精米歩合が高いお酒を選ぶと、フルーティな日本酒に当たる可能性が高くなります。

好みは人それぞれなので、もちろん淡麗辛口が好きな人や、濃醇旨口などが好きな人もおおいでしょう。入口として人気な「フルーティなお酒」から挑戦し、徐々に自分好みのお酒を見つけていくがおすすめです。

ベストなタイミング・場所で買う

日本酒を買うにあたって気を付けたいのはお酒の種類や銘柄だけではありません。いつ買うのか、どこで買うのかもお酒を美味しく味わうための大事なポイント。脱初心者の一歩目として、日本酒を買うにはどこで、いつ買うのがいいのかを紹介します。

日本酒のベストな状態を知る

日本酒は季節性の高い飲み物です。一度も加熱されていない「生酒」は高温で劣化しやすいという特性があるため寒い冬に作られることが多く、それ以降の季節に出回るお酒は保存期間を伸ばすために加熱処理された「火入れ」です。冬酒、春酒、夏酒、秋酒といったようにその季節ごとに美味しく飲めるように工夫を凝らしてお酒が造られているのです。

酒蔵は、消費者がお酒を買ってすぐに美味しく味わえるように逆算して商品を出荷しています。そのため、基本的には製造年月が近い日本酒を買うとベストなタイミングで日本酒を味わうことができるでしょう。ちなみに、日本酒には賞味期限と消費期限が存在しません。ラベルには製造年月のみが記載され、商品によっては「BY」(Brewery Year)という形で記載されることもあります。日本酒の業界では、7月1日から翌年の6月30日までを1年度として数えます。それにもとづいて、平成25年製の日本酒であれば「25BY」、令和2年9月製の日本酒であれば「R2BY」といった表記になります。

保管の期間に加え、保管方法も重要なポイントです。日本酒は、暗く寒い場所で、揺れたりしない安定した環境で保管されるのがベストです。お酒に含まれる酵母や麹の酵素がデリケートなため、味わいや香りを長く持たせるために、このような保管環境が必要となります。

銘柄よりも、まずは新鮮なまま適切な品質管理がなされていることが大切です。管理状態の不明な日本酒ではなく、いつ作られ、どこで保管されていたかわかる日本酒を選びましょう。

日本酒の特約店で買う

品質管理がしっかりとされた日本酒を買うためには、日本酒の特約店や直営店で買うのがおすすめです。特約店は酒蔵との関係性も深く、お酒を適正に冷蔵保管し、品質管理が行き届いています。逆に、「低温保管できる環境がないお店」「業務用の冷蔵庫やセラーがないお店」「日が当たる場所にお酒を置いているお店」などは避けましょう。

また、特約店や直営店では、基本的に定価で日本酒が販売されています。正規の仕入れルート以外から仕入れられた高額な日本酒が市場には数多く出回っています。その点、これらのショップであれば正しい値段で商品を購入することができます。

特約店や直営店は、酒蔵の公式サイトなど、Web上で検索することができます。飲食店のプロのほとんどもこれらのショップから日本酒を仕入れています。日本酒に慣れていない方こそ、勇気を出して専門のお店に行ってみてください。

初心者にもおススメの飲み比べ10種

最後に、2018年に日本酒に目覚め、3年間でこれまでに300銘柄の日本酒を飲んできた私から、初心者の方にもおすすめできる、フルーティな純米吟醸10種を紹介します。ぜひ飲み比べをして、好みを見つけてみてくださいね。

商品名製造方法容量価格(税込)
寫楽 純米吟醸一回火入720ml¥2,192
寫楽 純米吟醸 酒未来一回火入720ml¥2,727
赤武 純米吟醸 愛山火入れ720ml¥2,090
赤武 純米吟醸 NEWBORN 結の香生酒720ml¥2,200
信州亀齢 純米吟醸 無濾過生原酒 美山錦生原酒720ml¥1,671
信州亀齢 純米吟醸 ひとごこち火入れ720ml¥1,630
一白水成 純米吟醸 美山錦火入れ720ml¥1,485
一白水成 純米吟醸 雄町火入れ720ml¥1,732
鍋島 純米吟醸 山田錦火入れ720ml¥1,925
鍋島 純米吟醸 五百万石 生酒生酒720ml¥1,766

① 寫楽 純米吟醸 
福島を代表する人気の銘柄「寫樂」の定番商品です。メロンのような甘い果実感がある一方で、キレのある絶妙な辛さも併せ持ちます。初心者さんから、日本酒を飲み慣れた人まで、繰り返し飲みたくなるお酒です。
公式サイト:http://www.miyaizumi.co.jp/sake/

②寫楽 純米吟醸 酒未来
山形県産のお米「酒未来」を使用して造られた純米吟醸酒。落ち着いた立ち香と、口に入れると広がる果物のような含み香がポイントです。冷やして食中酒として楽しむのがおススメです。
公式サイト:http://www.miyaizumi.co.jp/sake/

③赤武 純米吟醸 愛山
イチゴやリンゴのような華やかな香りと、コクのある甘みが特徴的です。「酒米のダイヤモンド」とも呼ばれる希少な酒米「愛山」を使用したお酒の中でもトップクラスのジューシーな旨味を感じさせてくれます。
公式サイト:https://www.akabu1.com/gallery/

④赤武 純米吟醸 NEWBORN 結の香
岩手県オリジナルの酒米「結の香」を使用した赤武の純米吟醸は、雑味が少ないクリアな味わいです。マスカットのような控えめかつ優しい香りから、口に含むと旨味をはっきりと感じる味わいに変化。
公式サイト:https://www.akabu1.com/gallery/

⑤信州亀齢 純米吟醸 無濾過生原酒 美山錦
人気の酒米「美山錦」を使用して造られた信州亀齢。滑らかで優しい口当たりと、フレッシュですっきりとした飲み口が特徴的です。さわやかさとフルーティーさの調和がとれたバランスの良いお酒です。
公式サイト:http://www.ueda.ne.jp/~okazaki/

⑥信州亀齢 純米吟醸 ひとごこち
長野県産の酒米「ひとごこち」を使用した純米吟醸です。軽快な飲み心地と、甘みと酸味が調和した飲みやすいお酒です。お肉やチーズとの相性もばっちりです。
公式サイト:http://www.ueda.ne.jp/~okazaki/

⑦一白水成 純米吟醸 美山錦
優しい花のような香りと、フレッシュで穏やかな味わいの、一白水成の定番商品です。たっぷりの旨味とともにアクセントとなる酸味も。合わせる料理を選ばないので、幅広い場面で活躍する親しみやすい日本酒です。
公式サイト:https://www.fukurokuju.jp/products/

⑧一白水成 純米吟醸 雄町
高級ブドウのような品のあるのある甘みをしっかりと感じられる純米吟醸酒。甘みと酸味の両方を感じられるこの1本は、夏にもぴったりです。しっかりと冷やしてお楽しみください。
公式サイト:https://www.fukurokuju.jp/products/

⑨鍋島 純米吟醸 山田錦 
世界的にも人気な日本酒ブランドの1つ「鍋島」の看板商品です。みずみずしく甘い味わいに、爽快な酸味が絶妙なバランスのこの商品は、多くの人が飲んだ瞬間に「美味しい!」と感じられる味わいのはず。
公式サイト:https://nabeshima.biz/sake.html

⑩鍋島 純米吟醸 五百万石 生酒
「五百万石」ならではのすっきりとしたキレのある味わいです。軽やかな飲み心地なので、ついつい飲みすぎてしまいます。クリアなお酒なので、料理と合わせて楽しむのもおすすめです。
公式サイト:https://nabeshima.biz/sake.html

お酒の楽しみ方や味の感じ方は人それぞれなので、ここで紹介したお酒の選び方やおすすめのお酒には私個人の好みも含まれているかと思います。飲み比べをしながら自分の好みを知っていく過程も、お酒の楽しみ方の醍醐味です。今までに出会ったことのないお酒との楽しみに、ぜひ色々なお酒を手に取ってみてください。

参考

こんな記事も読まれています

日本酒を美味しく飲むための酒器(グラス)の選び方とおすすめの酒器
SAKE TALK 編集部のプロフィール画像
SAKE TALK 編集部
日本は世界一酒税が高く、世界一下戸の多い国?不利な境遇で酒蔵が発展してきたわけとは
SAKE TALK 編集部のプロフィール画像
SAKE TALK 編集部
山田錦、五百万石、雄町、愛山・・・何がどう違う?日本酒がもっと楽しくなる「酒米」の話
SAKE TALK 編集部のプロフィール画像
SAKE TALK 編集部
日本酒造りのカギは米作りにあり?国内でも珍しい「栽培醸造蔵」泉橋酒造のお酒の秘密に迫る
SAKE TALK 編集部のプロフィール画像
SAKE TALK 編集部
上に戻る