居酒屋で「日本酒の冷やで」と注文したのに常温の日本酒が出てきた、なんて経験はありませんか?
実は日本酒で言う「冷や酒」は常温のことを指し、冷たいお酒は「冷酒」と呼ばれています。他にも日本酒には温度に関する様々な呼び名が存在しているのですが、その理由は日本酒の「温度」と「味わい」に深い関りがあるからです。
今回は日本酒の知って得する「温度」にまつわる雑学をご紹介します。
日本酒は少しの温度の違いで味わいが異なる繊細なお酒です。温度を変えるだけで、まろやかになったりキリっとした味わいになったりと、その味わいは自由自在。温度によって呼び方も異なり、大きくは「冷酒(れいしゅ)」「冷や酒(ひやざけ)」「燗酒(かんざけ)」の3つに分けられ、中でも冷酒と燗酒には5℃ごとに名前がつくほどに細かく分類されています。ここでは温度ごとの名称や味わいの違いをご紹介します。
冷蔵庫などで5℃〜15℃まで冷やした日本酒を指します。生酒・大吟醸酒・吟醸酒などフレッシュで爽やかなお酒向きで、きりっと引き締まった香りと味わいが特徴です。冷酒は5℃ごとに名称がついており、以下のような味わいの変化を楽しめます。
雪冷え(5℃程度) | 氷水で冷やしたくらいの温度。香りは立たず、キリっとしたあっさりな味わい |
花冷え(10℃程度) | 冷蔵庫で冷やしたくらいの温度。花が開くようにゆっくりと飲むうちに香りがほころぶ |
涼冷え(15℃程度) | 冷蔵庫から出して少し経ったくらいの温度。口当たりがよくとろみのある味わい |
「冷や酒」と言っていますが、実際には20℃〜25℃の常温の日本酒を指します。日本酒本来の香りがもっとも分かりやすく、柔らかな味わいが特徴です。大吟醸酒や吟醸酒など繊細な味わいの上質なお酒にぴったりの飲み方です。
30℃~55℃まで温めた日本酒を指します。高温になるほど味わいは辛口になり、味わいの幅がぐっと広がります。甘味やうまみが際立つので、純米酒や生酛造りなど旨みや酸味のあるお酒にぴったりの温度です。
日向燗(30℃程度) | 温度の高さはあまり感じない。なめらかな味わいになる |
人肌燗(35℃程度) | 若干ぬるさを感じる。さらりとした味わい |
ぬる燗(40℃程度) | 飲むと温かさを感じる。香りが最も豊かになる |
上燗(45℃程度) | 注ぐと湯気が出るくらいの温度。引き締まった味わい |
熱燗(50℃程度) | 徳利から湯気が立つくらいの温度。切れ味のよい辛口に感じる |
飛び切り燗(55℃程度) | 徳利を持つと熱いと感じる。香りがより強くなり辛口になる |
超飛び切り燗(55℃以上) | このまま飲むというより、味わいを引き立たせるために一旦温度を上げ、しばらくしてから飲む |
他にも日本酒をマイナス10℃〜15℃までゆっくりと冷やし、みぞれ状にして飲む氷酒(みぞれ酒)などもあります。温度と味わいに関係性を知っていれば、食事に合わせて温度を変えたり、デザート感覚で食事に取り入れるなど、日本酒の楽しみ方の幅が広がるでしょう。
ここまでご紹介してきた通り、日本酒は少しの温度の違いでも味わいが変化するお酒です。その繊細さゆえに、保管方法を誤ると、すぐに変色したり劣化臭や嫌な雑味が生じてしまうこともあります。逆に言うと正しい保管方法を知っていれば、香りや風味を損なうことなく美味しく飲むことができます。その美味しさを長持ちさせるための秘訣は、日本酒の種類に合った「最適温度」を知ることです。
品質劣化の主な原因は、日本酒の中に含まれる「酵素」が糖分やタンパク質を分解することで酒質を変化させることにあります。この酵素の働きを停止させるのが「火入れ」と呼ばれる60℃の加熱処理です。
日本酒は種類ごとに「火入れ」の有無や回数が異なります。品質劣化を防ぎ美味さを長持ちさせるためには、それぞれの種類に適した温度での管理が大切なのです。ここでは日本酒の種類別に、美味しく飲める管理方法をご紹介します。
「普通酒」「純米酒」と呼ばれる一般的な日本酒は、火入れを2度行っていることがほとんどです。比較的品質が安定しているので、常温でも管理可能ですが、直接光が当たらない場所での保管が理想です。新聞紙でくるむなどの一工夫で美味しさを長く保つことができます。
「生詰め酒」「生貯蔵酒」は火入れを1度しか行っていない日本酒です。繊細な香りや味を損なわないように10℃前後での冷蔵管理がおすすめです。またフレッシュさが魅力の「新酒」も冷蔵管理が推奨されています。
火入れを1度も行わずに造られる「生酒」は、フレッシュでフルーティな香りが特徴です。こちらも冷蔵管理が理想ですが、大吟醸酒などと同様に冷蔵保管していたとしても、香りの変化や劣化のスピードが早く、最も管理が難しいお酒と言われています。
そんな非常にデリケートな生酒は「長く保存できないお酒」と思われがちですが、実は生酒にも「最適温度」が存在し、正しく管理することで他のお酒と同じように美味しさを長持ちさせることができます。今回私たちは、そんな生酒の「最適温度」を探るべく、ある実証実験を行ってみました。
生酒が劣化すると、「生老香(なまひねか)」や「ムレ香」と呼ばれるむせるような甘酸っぱい香りに変化します。その原因として確認されているのが、イソバレルアルデヒド、イソバレルアルデヒドジエチルアセタール、イソバレリアン酸エチルという物質です。これらの物質の増加度合は温度によって変わることが明らかになっていて、冷蔵保管することで増加を抑えることができると言われています。
つまり、生酒も他の日本酒と同様に適切な温度で保管することで、劣化を抑え味わいを長持ちさせることができるのです。今回は、さくら製作所の日本酒セラーを使用して、生酒の劣化に伴い発生するムレ香の成分は保管温度によってどのような違いが出るのかを調べる実験を行いました。
【測定方法】
(使用した日本酒セラー)
※第三者測定機関協力のもと実験を実施しています
【測定結果】
【実験をうけて】
今回の測定では、低い温度で保管するほど生酒の香りの劣化を抑えられるという結果が出ました。また、今回検出されなかったイソバレリアン酸エチルについても、より低い温度で保管すると増加を抑えることができるという研究結果があります。
生酒はたとえ1日程度の常温保存でも品質に影響が出るとも言われているので、生酒を購入したら、なるべく早くなるべく低い温度で冷蔵保管、できれば0℃以下の氷温管理が可能な日本酒セラーで冷蔵保管すると安心です。
一方で、お酒に存在する酵素を除去することで常温流通や常温保存でも生酒の品質変化を抑えることが可能な限外ろ過という方法もあります。こういった技術が広まっていけば、季節を問わず新鮮な生酒を楽しむことができるようになるかもしれません。
今回は温度に関する雑学や日本酒を美味しく飲むための保管方法をご紹介してきました。日本酒には賞味期限がないため、正しい保管方法を知っていればより長く美味しく日本酒を楽しむことができます。今回ご紹介した方法を参考にして、温度による日本酒の味の違いや幅広さを味わってみてください。
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