「惣誉は栃木の地酒でありつづけたい」その想いから生まれた「熟成」と「ブレンド」にこだわった独自の酒造り

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10月中旬、秋の気配も深まり肌寒さを感じるころ、お酒造りの季節が始まります。今回取材に訪れたのはそんな酒造りを目前に控えた時期。仕込みに向けて着々と準備を進めるのは、レトロな外観が目を引く惣誉(そうほまれ)酒造です。

今年で創業150周年を迎え、栃木県内の多くの人々に親しまれる惣誉酒造。どのようにして地元に根づき長く愛される「惣誉の味」ができたのか、お酒造りのこだわりや取り組みについて、6代目蔵元の河野道大さんにうかがいました。

自然の力と職人の技が光る惣誉の「生酛ルネサンス」

惣誉を代表する醸造製法、「生酛ルネサンス」。その名の通り、惣誉酒造は明治時代に確立された伝統的製法である「生酛造り」を2001年に復活させ、現在までその技術を磨き受け継いできました。生酛造りとは、日本酒造りに欠かせない酵母を自然の力で培養する製法です。蒸米・米麹・水を合わせてすりつぶし乳酸菌を自然発生させた後、温度管理によって乳酸発酵を起こします。現在主流となっているのは人工的に作られた乳酸を添加する製法。それに比べて、複雑な工程と繊細な温度管理、自然の力に頼る部分も多い生酛造りは、多くの技術と労力が必要となります。まずはそこに生まれる苦労を専務取締役である河野さんにうかがいました。

「まず肉体的な労働というのが1つあります。生酛造りの場合は酛すりと言って、米と米麹と水を混ぜてすりつぶす作業が発生します。半切り(※1)1つにつき蔵人3人がかりで、櫂棒(※2)を持ってそれを全部すり潰すんですよね。1日15分を2セット、それが長いときは2週間くらい連日続くので肉体の負担は製造工程の中で常にありますね。2つ目は温度管理です。乳酸菌や酵母は生き物なので繊細な温度管理が必要です。なので目には見えない菌の管理という所でも非常に神経を使う作業かな、と思います」

そうして作り出されたお酒には、生酛造りならではの奥深さや重層的な味わいが生まれます。加えて、惣誉独自の風味としてあげられるのが、雑味のない上品さと軽やかさ。その味を実現させるためにこだわっているのが、原料米の厳選と醸造環境です。

「原料米の仕入れにはこだわっていて、生酛造りで現在使用しているものは全て兵庫県特A地区産の山田錦になっております。その中でも、55%以上削っているものは全て兵庫県吉川産の山田錦です。この吉川産の山田錦を、東日本で一番といっていいほど使用しているのがうちの蔵です。また、2つ目のこだわりとしてあげられるのは、醸造環境の衛生管理。生酛造りは乳酸菌や酵母の力で酒母を造る手法ですが、清潔な環境を保たないと、管理がうまくいかず、余計な雑味や苦みが生まれてしまいます。清潔な環境でこそ、惣誉が目指す上品な味わいの生酛が完成すると考えています」

熟成するほどおいしい日本酒を目指して

もう1つ、惣誉を特徴づけるのは「熟成の味わい」です。おいしい日本酒と聞いて多くの人が思い浮かべるのは香りが華やかでフレッシュな味わいではないでしょうか。しかし惣誉のお酒はフレッシュというよりも、繊細でコシのある穏やかな味わいが特徴。1年2年と熟成しても品質が劣化せず、滑らかな味わいに進化していきます。そんな熟成に強いお酒を目指すわけは、今と未来の惣誉を見据えてのことだと河野さんは言います。

「惣誉の日本酒の消費量の内訳は栃木県内が85%を占めていて、ほぼリピーターの方なんですよ。もちろんフレッシュで香り高いお酒も美味しいですが、地元の人に毎日晩酌で美味しく飲んでいただけるお酒というのは、熟成して穏やかなお酒だと思うんです。栃木の食文化というのは味噌も醤油も塩分が強く、濃い味のものが多いのですが、その味付けを引き立てる旨みみたいなものがあると思います。こんな風に、毎日飲んでも体に馴染むお酒を心がけるようにしていますね。また、将来的なことを考えると、近年はカリフォルニア、ロンドン、フランスなどで現地の方が酒蔵を立ち上げるケースも増えてきました。フレッシュな日本酒で勝負となると、日本から長時間かけて輸送されたお酒は現地醸造の新鮮なものと比べ、劣ってしまいます。日本ならではの独自性をアピールするには、長く置いたとしても酒本来の良さが崩れないものを紹介する必要がありますし、江戸時代から続く『生酛造り』なら歴史的な部分も商品の付加価値としてアピールできると思ったんです」

日本酒業界の未来を見据えてワイン留学へ

今後は海外をより意識した商品展開をしていきたいと語る河野さん。海外醸造の日本酒が増え続ける中で、自社の日本酒を売り出すためには、アルコール市場全体を見渡せる広い視野を持つことが重要だと気づき、2017年の6月から11月の間、フランスのワイナリーへワイン醸造を学びにいくことを決意します。

「きっかけは今から10年くらい前に、フランスの方が惣誉に酒造り体験をしにきたことです。彼はフランスでワイナリーのオーナーをしていて、その彼からワイナリーに来ないか、と誘われたので留学することにしました。何を学びに行ったかというと、アルコール市場全体を勉強して日本酒の立ち位置を知る、ということですね。私が日本酒業界に入って実感するのが、どうしても日本酒のことばかりにしか触れられないこと。しかし実際に居酒屋や売り場に行くと、日本酒というくくりはあっても、消費者の皆様はほかの飲料と日本酒をボーダレスに比較しながら選んでいます。なので、他のアルコールを知って、アルコール業界の中での日本酒や惣誉の立ち位置を理解するのは非常に重要だと思ったんです。実際にワイン造りを体験したり作り手の想いを知ることで、視野を広げられたのではと思います」

日本ひいては世界のアルコール市場にまで目を向ける河野さん。一方で「地元の人々に親しまれ、おすすめされる地酒を造りたい」という想いは変わることはなかったと言います。その言葉の通り、惣誉酒造は地域に根ざした取り組みや工夫を長年続けてきました。

地元の人に親しまれてこその地酒

ファン同士が惣誉を通して繋がることができる場として、宇都宮市、真岡市、市貝市、芳賀町では「惣誉を愛する会」が毎年催されています。こうしたイベントは消費者の生の声を聞く機会として重宝しているそうで、宇都宮市では40年弱続く伝統あるイベントになっています。その他にも、蔵から10㎞圏内の農家が栽培している栃木県産米の「五百万石」を使用したお酒を造るなど、地元に寄り添った活動を精力的に行っています。そして何より大切にしているのが品質の担保。惣誉のお酒を長年飲んでくれる方に、変わらない味を提供し続けたいという想いから、瓶詰の工程での「お酒のブレンド」にこだわりを持っている、と河野さんは語ります。

「惣誉では仕込んだ原酒に火を入れて瓶貯蔵しておき、商品として出荷する際、それを出してブレンドして火入れするという工程を踏みます。なので、お酒が完成したらすぐに瓶に詰めて出荷している、というわけではないんです。生酛造りの純米大吟醸でいうと、仕込みの違う原酒をだいたい11〜12種類くらいブレンドします。まずは瓶を並べて小規模で試した後、実際に市場に流通している惣誉の商品と比べて、それに近い味になっているか、もしくはそれを超えるクオリティになっているかを確かめてから、ブレンドするお酒を決めます。ブレンドする原酒のタンクを人の手で全部あけ返すので結構な重労働です」

近年は生酒や1度だけの火入れのお酒も増えていて、2回火入れを行うケースは珍しいそうです。そんな中でも火入れやブレンドの手間を惜しまないわけは、長い流通にも耐えられるだけの強い品質の日本酒に仕上げたいから。また、熟成年度の違う原酒をブレンドすることで、飲めば飲むほど新しい味を発見できる、そんな重層的な味わいを実現したいからだと言います。そんな魅力的な惣誉のお酒の中で、特に河野さんがおすすめする商品をご紹介していただきました。

「おすすめ商品は、やはり生酛造りの『帰一』ですかね。おそらく12月ごろに『2017』というヴィンテージが出ると思います。名前の通り、一に立ち返って、本当に惣誉が持つ全ての技術をつぎ込んで造ったお酒になります。精米は自社で3割5分まで磨いて、それを生酛造りにして、そのうえで5年以上熟成させたものだけを市場に出しています。山田錦特有の奥深さの中にクリアな透明感があり、かつ熟成させることでまろやかさを残しつつ、風格が加わったような風味に仕上がっていると思います」

100年後200年後も変わらない「惣誉の味」のために

地元栃木に根ざしたお酒造りのために、技術を磨き、手間を惜しまない日本酒造りにこだわる惣誉は、今年で創立150周年を迎えます。インタビューの最後に今後の展望や地元への想いを河野さんにうかがいました。

「やはり一番大切にしたいのは、地元の方々に親しまれる地酒であり続けることです。その中で商品というのは更新を続けなくてはいけないものだと思います。生酛造りは惣誉の酒質を引き出すうえで非常に相性がよい製法です。でも、あまり継承された技術や伝統にばかりとらわれたくはないんです。今後100年200年のことを見据え、その時代の人たちの口に合うように、どんどん新しい技術や研究を取り入れていけたらと思います」

創業150周年を迎えても、愛され続ける味のために変化をいとわない惣誉酒造。積み上げてきた生酛造りやブレンドの技術と新たな取り組みを融合させ、これからさらに魅力あふれる味わいを私たちに届けてくれることでしょう。

惣誉酒造株式会社

代表者:河野道大(6代目蔵元)
住所:栃木県芳賀郡市貝町上根539
電話番号:0285-68-1141
公式サイト:https://sohomare.co.jp/
Twitter:https://twitter.com/SohomareSake

※1 たらいの形をした底の浅い桶。
※2 タンクなど容器中に入っている液体や液体と固体の混合物を混ぜ、均一にするために使用する棒状の道具。

撮影:関口史彦(オフィシャルサイト

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